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2015/09/15
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- 谷口 仁士:副首席主任研究員
谷口 仁士:副首席主任研究員
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- 谷口 仁士
氏名 | 谷口 仁士 |
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Name | Hitoshi taniguchi |
役職 | 副首席主任研究員 |
Senior Research Staff Deputy Chief Researcher |
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専門 | 地震防災科学 |
Speciality | Engineering Seismology |
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約40年間、地震工学および地震都市防災を専門に、各種被害の想定手法の開発・提案を行ってきました。2015年8月より東濃地震科学研究所にお世話になっています。以下は、今までの研究生活の概要です。
【1975-1989年】
常時微動の観測、液状化実験、地震被害の現地調査など
課題1:地盤の振動特性に基づく地盤種別判定法に関する研究
ラブ波(水平)とレーリー波(上下)の周期は地盤構造の変化とともに分離していく現象を確認し、表面波の分散解析などから水平成分と上下成分の卓越 周期のずれに基づく新しい地盤種別判定法を提案した。
課題2:地震被害想定に関する調査研究(名古屋市を対象)
名古屋市を対象地域として想定東海地震、東南海地震、濃尾地震の3つの地震を想定した被害予測手法の開発を行った。被害項目は、1)地震動、2)液状化危険度、3)木造家屋、非木 造家屋、4)死傷者、5)出火・延焼(地震火災)、6)地震水災害、7)宅地造成による被害などである。
課題3:地震被害の現地調査、既往の被害地震の資料解析など
1948年福井地震の資料解析を行い、この分析結果は、後の1998年、『よみがえる福井震災』を刊行する機会となった。
【1990-2000年】
地震防災における研究マネジメントの実践および経済被害の研究
1991-1993年 | 国際協力機構(JICA)の長期専門家としてペルー、メキシコに赴任。地震動データベースの構築・活用の他、被害想定手法や研究プロジェクトの推進方法などについて現地の研究者と共同研究を行った。 |
1994-1998年 | 国際連合地域開発センター (UNCRD)の研究員として、ボゴタ市(コロンビア)および北京市の被害想定や減災に関するプロ ジェクトを推進。また、地震による経済被害(直接被害額)推定に関する研究を開始し、直接被害額推定に関する基本式(Ver.1)の開発を行った。また、この研究は今でも行っている。 |
1998-2001年 | 理化学研究所地震防災フロン ティア研究センターの研究主幹として、環太平洋地域に面した地震災害国を対象に、地震防災の実践化プロジェクトを推進。また、阪神・淡路大震 災による経済損失(直接および間接被害額推定)に関する研究のため、震災発生時からの各種経済状況に関する情報の収集・整理・分析を行い直接被害額推定式(Ver.2)に関する改良を行った。(図1 参照) |
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- 図1 民力総合指数と直接被害額との関係
【2001-2009年】
地震防災に関するプロジェクトマネジメントと産業(経済)被害の研究
課題1:東海・東南海地震防災合同プロジェクトの推進(2001-2007年)
東海地域の研究機関や公益企業、コンサルタントなどと東海・東南海地震を対象とした“産学官民”の防災プロジェクトの企画運営を行うとともに住民を対象とした防災活動・教育を定期的に実施した。
課題2:自主防災組織の活動活性化支援プロジェクト(2003-2006年)
刈谷市および尾張旭市を対象に、各々2年間のプロジェ クトとして自主防災組織の活性化のための実態調査や講演会さらに予防対策の実施など行い、予防対策の実施に関する問題点の解明とともに支援効果の定量的な評価手 法の開発を行った(図2参照)。
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- 図2 2年間に変動した防災力(刈谷市の事例)
課題3:リスク経済工学創成のための研究(2005年から現在まで)
1995年以降、地震による経済被害の研究に取り組んで来た。これまでの研究成果を“リスク経済工学”として創成するための準備として以下の課題を考究し、現在も継続中である。なお、本研究は21世紀の地震防災を担う”若手 研究者“の課題の一つになると確信している。主な課題は以下の通り。
1) 津波による直接被害額予測に関する研究;大規模な津波災害の情報は少ないが、2011 年東日本大震災のデータや東北地方の既往の津波災害などの情報から推定式の構築を行った。しかし、幾つかの問題点もあり今後、改 良する必要が有る。
2) 間接被害額推定法の開発;間接被害額の推定としてマクロ的アプローチとして域内総生産額(GRP)に着目し、5歳階級別の人口や所得額などを変数とする AR モデルによりGRPの予測手法を開発した。この手法により地震が発生しなかった場合の GRP の予測値と地震後の実績値の差を間接被害額とした。(図3参照参照)
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- 図3 1995年阪神大震災における神戸市のGRPと震災が発生しなかったとした場合のGRPの経年変化
2004 年に復興が完了している。図中の黄色は震災による負の影響、水色は復興特需による+の影響を表している。
図3 1995年阪神大震災における神戸市のGRPと震災が発生しなかったとした場合のGRPの経年変化
2004 年に復興が完了している。図中の黄色は震災による負の影響、水色は復興特需による+の影響を表している。
3)経済復興シミュレーターの開発;直接被害額と間接被害額の推定式から、被災対象地域の経済的損失額(直接および間接被害額)の推定が可能となった。しかし、間接被害額の発生要因となる商工業に特化した直接被害額の算定方法、復旧・復興政策およびその実施過程で生生じる間接被害額と地域産業に及ぼす影響などについて、産業連関表を用いたたミクロ的なアプローチが必要である。これらの課題を明確にすることや自治体の復興政策の費用対効果などを組み 込むことで復興シミュレーションが可能となるが、越えなければならない問題は山積している。
【2009-2014年】
文化遺産防災および保存継承に関する研究および経済被害の研究
文化遺産に関する防災・防犯の調査研究として、全国の社寺仏閣を対象とした人為災害(盗難、放火な ど)に関するアンケート調査を実施した。その結果、約 34.4%の社寺仏閣で盗難などの被害にあっていた事が明らかとなった。特に、府県市町指定の文化財で盗難などの被害比率が大きくなっていること、また、重要伝統的建築物群保存地区(伝建地区)における保存・ 継承に関する調査研究では、所有者の継承問題が徐々に顕在化していることが明らかとなった。
【2015-現在に至る】
震害の多様性の解明と対応に関する研究
近年の地震災害は、既往の被害地震から得られた予防や減災に関する教訓が生かされていない事、被害項目と復旧・復興課題の多様性が顕在化するとともに、被災地域の社会経済構造(住民の年令構成、産業(生業)、少子高齢化など)にも大きな特徴が現われている。発災の仕組みや地域の特徴との関連など、地震防災の源流に立ち返り、経済被害などの研究に取り組んでいます。